3/21の土曜日に、将棋電王戦FINALの第2局が行われた。
永瀬拓矢六段がSeleneに89手で勝利した。
88手目の「角不成」にSeleneが対応出来ずバグってしまい、
まさかの「王手放置」という反則負けとなってしまった。
プロ棋士側にとっては、これで二連勝だ。
序盤がひとつの大きな楽しみ
Seleneは様々な戦型を指すソフトだとよく言われていた。
電王戦ドキュメンタリーの中でも、鬼殺しというハメ手のような奇襲戦法を繰り出していた。
過去にまとめた記事があるので、こちらも参照していただきたい。
急襲「鬼殺し」をSeleneが指したらこうなった (vs永瀬拓矢六段)
Selene vs 永瀬六段 の練習対局での鬼殺し戦法 を検証する
今回も、序盤にどういう戦型になるかを注目してみていた。
▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲7八金△8五歩
たった6手で、ほとんど見たことのないような形になった。
居飛車系だが、どう進むのだろう。
しかしまだまだ、合流していく形にもなりうる。
▲2五歩△3三角▲9六歩△3二金▲6八銀△8六歩
▲同歩△同飛▲8七歩△8二飛▲7六歩△8八角成
なるほど、ここまでくれば角換わりだ。
しかし、角換わりの一種なのだが、後手だけ飛車先の歩を切っている。
これは普通に考えたら後手有利なように思うのだが・・・
やはり、面白い序盤戦になった。
中盤の駒組み合戦の妙
少し進むと、後手陣は角換わりによくあるように、キレイにまとまってきた。
一方、先手陣はバランスがいいのか悪いのか、
ひと目バラバラな印象を受ける。
飛車先の歩も切れているしこれで後手がよくならないわけが無いだろう・・・と思っていたのだが、
なかなか後手からは仕掛けるタイミング・場所が無い。
そうこうしているうちに、先手は右玉に構え、
キレイな格好になってきていた。
一方で後手は「しゃがみ矢倉」模様に深く囲う。
両者の陣形が整ってきたところで、先手から上手い手順で仕掛けが入る。
先手の仕掛け
まず2筋の歩を交換して、
次に7筋の桂の頭を狙い、銀をおびき寄せる。
再度2筋から桂交換をして、
交換した桂で銀を狙っていく。
このあたりは先手が上手くやっているように思う。
(途中、端の応酬はあるが省略している。詳しくは棋譜を追って欲しい)
後手の反撃
しかし後手もその間に1筋の端を破っていく。
△1五香と走って、▲6三桂成△同金▲4一角に△1八歩成と飛車を攻める。
玉飛接近すべからず、というが、玉も飛車も同時に攻める展開になっている。
たまらず▲2九飛には一度手を戻す△6二金
このあたり、中盤の面白いところだ。
一気に終盤戦に突入
お互い終盤に向けて有効な手を指していき、
先手は▲3二角成と角で金をはがし、端にと金を作って勝負。
この局面で踏み込めば勝つにせよ負けるにせよ、一気に決まりそうだ。
そんな解説がなされ、いよいよ楽しくなってくる。
終局は突然訪れる
歩成り自体はまだなんでもない。
その一瞬を突いて、△1六角。
これが大きな一手で、いい受けが無い。
先手は▲4九玉と逃げられれば、左側は守り駒がたくさんあって安泰。
後手からすれば、それを許してしまうと勝つのが厳しくなる。
なので、脱出ルートは防ぎながらの攻めが求められる。
角は2枚ある。
△1六角に▲2七歩と合い駒をして、△同角成▲同玉▲1七香成で、
やはり4九に逃がしさえしなければ後手の攻めは続きそうだ。
しかし、衝撃の一手があった。
△2七同角不成
なんと、歩の合い駒を△同角不成!!
これには驚いた!!
不成(成らず)というのは、稀なケースではない。
銀の斜め後ろの利き、桂や香の独特の動きを使うために、
あえて成らないという選択肢はある。
だが、飛車・角・歩については、
元の性能をキープしたまま強くなるので、99%以上の場合は成ったほうが良い。
残りの1%未満は何かというと、成ってしまうと駒が強くなりすぎて打ち歩詰めになるので、
敢えて成らないという選択だ。
飛車不成は稀に見るが、角はほぼ見たことが無い。
確か昔、谷川先生が角不成で打ち不詰めを回避した例があったハズだ。
しかし今回は、打ち不詰めとは全く関係が無い。
明らかにコンピュータ対策用の不成だ。
そして、電王手さんがちょっと動こうとしたすぐ後、動かなくなった。
Seleneにトラブルが発生したのだ。
騒然とする場内、解説者たち。
「10分ぐらいで投了すると思います」と平然と話す永瀬六段。
これは、恐ろしいものを見た。
ぜひ、ニコニコ生放送のタイムシフトでご覧いただきたい。
△2七角不成に対応出来ず
電王手さんが、この次の手を指すことはなかった。
Seleneは、この△2七角不成に対して正しい反応が出来なかったのだ。
無かったことになっており、次の自分の手▲2二銀と、
王手を放置するという手の命令を出していたそうだ。
王手を放置するなどはありえない。
即、負けになってしまうからだ。
前局でもあったが、これもコンピュータらしい特徴とも言えるだろう。
読み筋を絞ったほうが、同じ時間でより深く読めるようになる。
つまり、ソフトの実力が高まる。
なので、飛車・角・歩の不成など、
考慮する必要性がほぼ皆無に近いので、
それは読まない、という設定をしていたそうだ。
強くするための方法が、逆手に取られてしまったのだ。
それを研究でキッチリ理解し、
しかも実戦で躊躇うことなく指せるというのは、本当にプロは恐ろしい。
いや、永瀬さんが恐ろしいと言うべきか。
指すことが出来なかった事象を細かくお伝えすると。
Seleneが電王手さんを動かすために「将棋所」というソフトを使っていた。
その「将棋所」で王手放置の手を指すことが出来ない、
つまり不正の手と判断したため、電王手さんを動かせなかったのだ。
公式の結果としては、89手目の▲2二銀が王手放置ということで、
Seleneの反則負けという結果になった。
棋譜を確認したい方は、下の画面から追ってみるとよいだろう。
永瀬六段の美学
永瀬六段の会見では、こんなことを言っていた。
飛車・角・歩の不成にはSeleneが対応出来ていないのは、
研究中に気づいて、試した10回中10回、再現した。
最低でも時間を多く使わせることが出来た。本番のソフトでは修正されている可能性もあったが、
成・不成のどちらでもいい局面が来たので成らずを指した。時間が拮抗していたので1分でも多く時間を使わせることが出来ればと思った。
もの凄い研究量であることは間違いない。
そして、その勝利にかける意気込みも感じ取られた。
また、普通に▲同玉と対局が進んでいた場合の読み筋についても大盤解説会で説明していた。
▲同玉△1七香成
対して▲3七玉は△2五桂▲2六玉△1四桂▲同と△同銀
この△1五角の一手詰めが受けなしで勝ち。
仮に▲1五歩なら、△3七角!
▲同金△1六成香▲同玉△1七桂成
詰め将棋でもあるような、実に見事な詰みがある。
△1七香成に▲2六玉でも、△1四桂▲同と△同銀
これも△1五角の一手詰めが受けにくい。
▲1五歩なら、△同銀▲同玉△1一飛
▲1四桂の合い駒に△2三桂▲2四玉△1五角
▲2五玉△2四歩▲3四玉△3三歩▲4四玉△4三歩▲5五玉と逃げるものの、△4八角成と金を取って勝勢。
ここまで読みきった上で、敢えて不成を選んだのだ。
99%勝てると思っていたものを、さらに万全にするための不成。
恐るべき勝負術である。
戦う前のインタビューでは「負けない将棋を」と言っていた。
さすがである。
まだまだ続く電王戦。次は第3局。
続いて来週は、稲葉陽七段vsやねうら王 戦だ。
練習対局ではかなり勝っていて、「あえて飛車を成らせる」という具体的な作戦まで披露してくれていた。
さて、どういった展開になるのだろうか・・・
こちらも目が離せない。
今週末が楽しみだ。
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