「横歩取り△2三歩戦法」をご存知だろうか。
横歩取りといえば、お互いに角道を開けて飛車先を交換する・・・と思われるだろうが、
実はその前、飛車先を交換する前の変化もある。
それがこの△2三歩戦法だ。
プロ間では、「先手よし」の結論が出て、指されていない。
が、それはプロ間でお互いに「先手よし」の定跡を熟知しているからで、そう単純ではない。
今回は、横歩取り△2三歩戦法への対応について、研究していこう。
1.横歩取り△2三歩戦法とは?
早速初手から、基本形まで進めてみよう。
▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金
▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩
横歩取りの出だしから、先手だけ飛車先の歩を交換して、
後手はなんと(!)あっさり△2三歩。
現代の横歩取りしか見ない方にとっては、ちょっと肩透かしを喰らったような歩打ちだ。
格言にもある通り、飛車先の歩を自分だけ切れれば、それだけで少しに有利になる。
飛車先の歩交換三つの得あり (ひしゃさきのふこうかんみっつのとくあり)
飛車先の歩交換に三つの得があるということ。
三つとは、一つは持ち駒に歩が増えること。
二つ目は歩が居なくなった升目に自分の駒を進められる事。
三つ目は飛車先が敵陣に直射していること。wikipediaより引用
それを後手はあっさり許して、
しかも先手に「横歩を取ってこいよ」と挑発しているような格好でもある。
さて。
ここで横歩を取れるだろうか?
勢いは取るところ。
しかし、そのあとの変化を知っていないとなかなか取れないところでもある。
プロ間での研究では、先手良しの結論が出ている。
これは取れる歩。取ってやろうじゃないか。
後手の狙いはすぐわかる。
▲3四飛△8八角成▲同銀△2五角
△2三歩戦法はこの角打ちが狙い筋。
飛車取りと角成を上手く受けてみろ、という命題だ。
ちなみに、ここで△2五角に代えて△4五角と打つ手もあり、
こちらも同じように先手良しの結論のようだが、こちらも結構難しい。
横歩取り△2三歩戦法の△4五角と変化した場合の記事も用意したので、
合わせて理解を深めよう。
さて本題に戻って、△2五角からの展開を見よう。
2.△2五角への選択肢は2つ
さて、ここで考えられる手は何があるだろうか。
パッと見えるのは▲3六飛だが、飛車角交換に甘んじることになる。
それでも悪くはないが、定跡では▲3二飛成と飛車を切る。
これで先手が良いとされている。
いきなり飛車を切る手なので、知っていないとおそらく指せない。
そして勇気も必要だ。
変化を詳しく解説するので、是非▲3二飛成からの展開を把握し、
飛車を切れるようになってもらいたい。
端的に言えば、先手陣にスキを作らず、
かつ後手の角を負担になる展開に出来れば、先手優勢を築くことができる。
2-1.▲3二飛成と飛車を切れ!
たったの17手目にして飛車を切って先手が良い。
にわかに信じがたいこの定跡だが、その実を見ていこう。
▲3二飛成△同銀
さて、ここでどうしようか。
一直線に攻め合うとすれば、▲2二角だが、
△4七角成が詰めろ桂取りなのでこれは無理。
まずは△4七角成を防ぐ必要がある。
さらに、先手は飛車を渡しているので、
飛車の打ち込みを避けつつ、かつ△4七角成を防ぐ必要がある。
一方で後手のほうも、▲2二角と打たれるスキが残っている。
よって攻め合うのではなく、互いに自陣を整備するように進む。
▲3八銀△3三銀
後手の△3三銀は、2三の地点がスキになるが、そこは甘んじるという守り。
バランスの悪さゆえ、どうやってもスキが出来てしまうところでもある。
ここでの応手でまた分岐する。
パッと見えるのは、せっかく空いた2三と6三の両成りを狙う▲4五角。
定跡では▲1六歩という軽妙手が示されている。
それから、自陣に手を入れる▲6八玉も有効だ。
ここでは、その3つをご紹介しよう。
2-1-1.▲4五角から馬を作る手順の成否
▲4五角はどうか?
結論から言うと、▲4五角では馬を作れてもその瞬間が甘い。
後手に攻めの機会を与えることになってしまうので、先手としてあまり嬉しい変化ではない。
では、詳しい展開を見ていこう。
▲4五角には手抜きは出来ず、手抜いて▲6三角成を許すと▲4一金の詰めろで迫れる。
なので後手としては何か守る。
パッと見えるのは戦場から離れる△6二玉。
▲4五角△6二玉▲2三角成
狙いの▲2三角成は出来たものの、
馬と持ち駒の金だけでは、早い攻めは無い。
なので次の▲2二歩や▲3二馬を狙って攻め駒の補充を図りたいところ。
だが、▲2三角成で後手の手番。ここで攻められる展開になってしまうのだ。
例えば。
△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△7六飛
▲7七銀△2六飛▲2七歩△4七馬▲同銀△2三飛
こうなれば後手有利だろう。
後手からの△2七飛成、先手からの▲3二角が見えているので、
▲3八金△2二飛とお互いスキを消すものの、後手からの次の△2八歩が厳しい。
▲同金△3九飛が迫力のある攻めだ。
▲4九金には、△同飛成▲同玉△6九角で崩壊してしまう。
また、▲2三角成に△8六飛よりももっと激しくいくなら、いきなり△4七角成という手もある。
△4七角成▲同銀△2八飛
▲3三馬△同桂▲3八銀打 と続く。
後手は飛車をどこかに引いて、まだまだこれからの展開だが、
先手の攻め駒が足りなくなりそうな展開だ。
後手に飛車を持たれていると、△4七角成は△6九飛までの詰めろになることが先手陣の痛い穴。
しかもこれがなかなか埋めにくい穴だ。
前に戻って▲4五角に△5四歩という軽妙な受けもあり、こちらは飛車の横利きを通ったままにできる利点があるが、
角を成らせる2筋に少しだけ近くなるので、損得は微妙なところ。
(△5四歩▲同角に△5三飛の返し技があり、この歩は取れない)
この4五角が打てないのでは△2三歩戦法は後手有利と思われたが、
▲1六歩という手が発見され、これで先手良しとなったのだ。
次はその変化を見ていこう。
2-1-2.軽妙手▲1六歩の展開
▲1六歩
ぼんやり端歩を突いたような手だが、次の▲3五金で後手の角を捕獲できるという狙いがある。
△4四歩と角の逃げ道を作る手には、▲6五角と桂取りに角を打つ。
この桂取りが非常に受けづらい。
△2二飛には▲3一金や▲3二金と桂馬を狙って重たく迫るだけで良い。
これは簡単だ。
もし、△2二飛に代えて△3一飛と惜しみなく打って守るような展開になれば、
▲3六歩から、右桂・右銀の活用を図るように指すのが良い。
△6四歩と角を追われても、▲5六角が▲2三角成を狙う絶好の位置に移動も出来る。
この変化の一例を示そう。
▲1六歩△4四歩▲6五角△3一飛▲3六歩△6四歩▲5六角△2二飛▲8三角成△3六角▲5六馬
後手陣の二枚の飛車はなかなか活用が難しく、△2五角も空振りしている。
一方で先手陣はのびのびしており、金を手持ちにしているのも大きい。
また、△4四歩ではなく、△2四歩と角のルートを作るような手には、
もったいないようだが、この瞬間に▲3一金と桂馬を狙っていく。
受けるならば△2二飛(もしくは△2二飛打)だが、空いた空間に▲2三歩と打つのがピッタリの手。
△同飛ならもちろん、▲3二角だ。
この▲1六歩に対して、後手は角を見捨てる△1四歩が最も頑張れるようだが、
この変化はかなり大変なので、また別の記事を書くこととする。
2-1-3.守る手もある
飛車を切って~△3三銀で自陣に手を入れる手もある。
守りを固めるのであれば、前述のような後の△7九飛を消しつつ、5七の歩を守る▲6八玉が第一感。
他には、飛車先交換を防ぐ▲7七銀あたりだろうか。
後手からすぐには有効な手段は無い。
歩を渡すと△2八歩があるので、それだけ注意していれば大丈夫。
どっしりと自陣に手を入れるような手だ。
陣の右辺は金銀が良い形で広い範囲を守っている。
後手に飛車を渡しているので、打ち込みには常に気をつけなければならない。
また、互角に玉を固めあって、後手の左桂・銀が働く形になってしまうと、駒損している先手の調子が悪い。
飛車がないので、やや攻めがゆったりになりがちで、後手の攻めを受ける形になりやすい。
3.まとめ
横歩取り△2三歩について、十分にご理解いただけただろうか?
横歩を取らずに飛車を引き、相懸かり模様にすることも勿論可能だ。
だが。
取れる横歩は取り、売られた喧嘩は買う。
そんなつもりで横歩取りの奇襲に対応していくための、
研究の材料にしていただければと思う。