最近、心を掴んで話さないのが、永瀬六段vsSeleneの練習対局での鬼殺し戦法。
コンピュータSeleneが「鬼殺し」を仕掛けて、受けの強い永瀬六段を攻め潰してしまったのだ。
今回は、その練習対局を振り返ってみたいと思う。
最初に断っておきたいのが、あくまでも30分切れ負けの練習対局であること。
まだまだ研究段階だから、方針や指し手の傾向を掴むという意味が大きい対局だと私は思う。
強い手で踏み込んだらどうなるのか。
ギリギリと思う受け出したら、どんな風に攻めてくるのだろうか。
それを見極めていない、準備不十分なうちは、そりゃ負けることだってあるだろう。
今回の記事は、それを取っ払って「棋譜」が同だったかを考察していきたい。
この記事を読み進める前に・・・
もし、関連の2つの記事をまだ読まれていない場合は、先にそちらを見ることをおススメしたい。
鬼殺しとはどんな狙いのある、どんな戦法なのか?
どんな対局が行われ、結果はどうだったのか??
それを理解することで、いっそう今回の考察があなたの役に立てるはずだ。
鬼殺しの作戦のキモ→あの急襲「鬼殺し」再来の予感?
対局の内容・結果→急襲「鬼殺し」をSeleneが指したらこうなった (vs永瀬拓矢六段)
では、棋譜をおさらいしておこう。
携帯端末で見れない場合は、動画の内容をおさらいしておくといいだろう。
Selene vs 永瀬拓矢六段 30分切れ負け棋譜 ~電王戦ドキュメンタリーより~
今回の鬼殺し対応のポイント
鬼殺しの狙いは7三の地点。
桂馬を跳ね、角と飛車と連携する先はやはり7三、そしてその先8二にある飛車なのだ。
5三の地点だったり、角で遠くの2二や1一を睨むが、最終的には飛車を成りこむ作戦だ。
序盤の攻防も、なかなか面白いものだった。
序盤の攻防 △7四歩と△5二飛
▲7六歩△3四歩▲7七桂△7四歩▲6五桂△5二飛
今回は対局では、△7四歩と△5二飛と回る展開だった。
自ら飛車のコビンを空けるのか???と思ったが、歩を桂馬の利きから先逃げして、
かつ飛車を回って5三を先受けしている。
飛車を回ったことで将来の▲2二角成△同銀▲5五角で飛車を狙われることが無くなり、
さらには2二の地点も飛車の横利きを活かして受ける。
なるほど、これはいい手順。
前の記事で書いたような手順はプロなら当然、重々承知。
受け将棋の永瀬さんは、敢えて鬼殺しを正面から迎え撃ち、
かつ△6二金なんかよりももっと良くなる手順と判断して指したのだと思う。
もしくは、もっとギリギリに見えても勝てるような手順。
私は△5二飛という受けを知らなかったので、
こんな手もあるのか・・・とうんうんうなづいていた。
さすがに鬼殺しに負けるとは思っていないので、どう手が進むのかが楽しみだった。
桂損でも良いとの形勢判断
▲7八飛△7二金▲7五歩△6四歩▲7四歩△6五歩
(△6四歩まで)
(△6五歩まで)
手が進むと、後手はあっさり桂得した。
普通、12手で駒得をすることなんてありえない。
歩以外の駒が駒台に乗ることすら、角交換以外には無い。
いきなり桂を跳ね、歩で取られるからには、何かプランがないといけないのだ。
・・・と思っていると。
▲4八玉△8二銀▲3八玉△6二飛▲5八金左
先手は桂を損してるのにのんびり玉を囲いに行くという、不思議な手順。
なんだこれは・・・。
「居玉は避けよ」で▲4八玉までは分かるものの、▲3八玉~▲5八金左。
自陣に手を入れるということは、相手陣も同様に整備されるということ。
同じように整備されてしまえば、桂損が響いてくるはず。。。なのだが。
解説をしていたプロ棋士の遠山さんは、
「ただの桂損ではなく、歩との交換、さらには7四に拠点を作っているので、
なんとかバランスが取れているということだろう」
と言っていた。
が、コンピュータの判断はそこにあったとすると、やはり私には違和感がある。
普通は、攻めて駒損するならその代償をどこかに求めないといけない。
たとえ歩の損でも、その後、互角に玉を固めあったとしたら、
やっぱりその一歩損が大きく響く。
ましてやプロ間で僅かな差で勝負がつくような場合は特に、である。
今回は桂の損。大きすぎる損だと私は感じた。
どこかに代償を求める、というのは具体的には、
成駒を作るとか、どこかを突破するとか。
それがまだ見えないまま、玉を囲うというのは違和感があった。
後手に有効な手が無いから囲う、という判断だったのだろうか。。。
一転して一気の攻めが炸裂
先手だけ囲わせるわけにはいかないので、後手も囲いに入る・・・
と、その瞬間を狙い澄まして攻めに転じてきた。
△4二玉▲2二角成
(△4二玉まで)
(▲2二角成まで)
先手の囲いの手に乗せられてしまったのか、後手の△4二玉が少し緩い手だったように思う。
2二の銀を飛車の利き守っていたのに、玉を囲いに行った一瞬、それが途切れたのだ。
そこをSeleneは逃さず、▲2二角成。
△同銀▲5五角
ちょっと手順は違うが、鬼殺しの狙いの角だ。
これは8二の銀にも当たっていて、銀を取って7一や7三に打たれるのが見えている。
かといって2二の銀をタダ取りされるわけにはいかない。
この▲2二角成の強襲は痛すぎるのだ。
△3一玉▲8二角成△同金▲7一銀
△3一玉と引き、将来の△3二飛からの攻め筋を残す。
3筋は先手の玉頭なので、ここに手がつけられればそれだけでも脅威だ。
しかし、それでも角を切っての▲7一銀。
飛車・金の両取りだ。
△3二飛▲8二銀不成△同飛▲7三歩成△同桂▲同飛成
鬼殺しの狙い筋▲7三飛成が実現してしまった。
飛車を成り込み、あとは先手の攻めが繋がるかどうか。
途中、見事な受けを見せたが・・・
それ以上に攻めが勝った。
(▲7三歩成まで)
(▲同飛成まで)
形は違えど、こんな手順で鬼殺しが成功したのだ。
成功のポイント
序盤の桂損でも、7四の歩の拠点が見た目以上に大きかったんだろう。
そして、常に▲2二角成~▲5五角の狙い筋が残っていたこと。
後手側からは、気をつけて駒組みをしなければならないところで、
少し緩めた手が出てしまったという印象だ。
(もちろん、攻め筋を見てみるという目的があったのかもしれない)
結果的に先手が勝ったから、鬼殺し強い、みたいな印象が残るが、
圧巻なのは鬼殺し成功の後の攻めの手順にある。
事実、激指で検証しても序盤にそこまで一気に差がついたわけでもなく、
少しあった差がここからジワジワと拡大していったという評価だった。
まとめ
コンピュータが鬼殺しを指してくる、
つまり、有効な順のひとつだと思っているのは興味深かった。
人間がどちらが有利と判断を下している戦形でも、
実はまだまだ、可能性があるのかもしれない。
そこを、コンピュータを上手く使って解析していけるのであれば、
電王戦も非常に大きな意味を持つと思う。
この記事をまとめながら一局に集中し、
鬼殺しを再度勉強するいい機会になったのは間違いない。
あなたにとっても、将棋の面白さの再発見と、
鬼殺しを学ぶいい機会になってくれたら幸いだ。
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