横歩取りの急戦と言えば△2八歩からの△4五角戦法が筆頭に挙げられる。
が、後手から△3八歩と打ってくる急戦もあるのだ。
▲同銀と取れば△4四角戦法に向かう。
後手はそれが狙いなのだが、△3八歩の先手の対応によっては違った形になり、別にさほど悪くはならない。
後手の△4四角戦法に真っ向勝負してもいいが、研究を外して勝つのも一興だろう。
この急戦志向△3八歩への対応を、少し深く学んでみよう。
本記事に記載、もしくは関連する変化については、
以下のチャートの通りだ。
▲3四飛(横歩取り基本形)
┣△3八歩 横歩取り急戦志向の△3八歩への対応(本記事)
┃ ┣▲同銀
┃ ┃ ┣△2八歩
┃ ┃ ┣△4五角
┃ ┃ ┗△4四角 △4四角戦法へ(別記事)
┃ ┣▲同金 (6/19までにUPDATE 予定)
┃ ┗▲2八銀 (6/19までにUPDATE 予定)
┗△2八歩 △4五角戦法へ
1. 横歩取りの△3八歩とは?
まずはおなじみ、横歩取りの基本図から示そう。
手順前後によっては別の戦型に誘導されることもあるが、
基本図までいけば先手後手ともに横歩取りの合意が取れた形となる。
▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金
▲2四歩△同歩▲同飛△8六歩▲同歩△同飛▲3四飛(横歩取り基本図)
ここで後手から△8八角成と交換し、▲同銀に△3八歩と打つのが、横歩取りから急戦に向かう指し方のひとつだ。
△3八歩戦法と呼ばれたり、後の△4四角戦法の入り口でもある。
初見では、この対応に迷うのではないだろうか。
▲同銀
▲同金
▲2八銀
ということで、この記事ではこの手への対応を考えていこう。
幾つかの本やサイトを見ても、▲同金、▲2八銀は先手が悪いとアッサリ言い切って、
なので「▲3八同銀」、つまり「△4四角戦法に対応せよ」という結論を出している。
が、私が見た所はどれも簡単ではないし、どれも奥深い変化が待っている。
結論から言えば、確かに▲同銀が最善のようだ。
だが。
後手から△3八歩と打ってきた以上、△4四角戦法を準備してきていると言っていい。
その研究合戦に自信があれば▲同銀△4四角でと指せば良い。
それに比べ、メインではない▲同金や▲2八銀は相手の研究は浅いハズ。
こちらでも別に先手が悪いわけではないから、
相手の研究を外して、自分の土俵に持ち込むように指すことも将棋の楽しさの一つだ。
(大丈夫、相手の△4四角だってどうせそういう狙いなのだから。)
なので、この△3八歩の意味と狙いをしっかり知った上で、
あなたの指したい将棋に向かうような対応を取ってほしい。
では、ひとつずつ解説していこうと思うが、まずは概要からだ。
2.△3八歩の狙いの意味と概要
そもそも、何故△3八歩を打つのか?
後の△2八歩が見え見えとはいえ、一歩使ってまで意味のある手なのだろうか?
2-1.研究していなければ、パッと見の印象で指すだろう
基本的に後手は、▲3八同銀と取ってきてほしいのだ。
というか、それ以外の応手はパッと見て先手が指しづらいと思っているのだ。
後手の意図を考えてみると。
▲2八銀と避けるならば、△4五角戦法を使えば良い。
しかも先手は一歩少ない状態、かつ△2七歩や△3九歩成、△3九○打が残っている。
後手からすれば、通常の△4五角戦法よりむしろ好条件に思える。
▲3八同金は、金開きの形とはいえ、8筋・6筋から攻められるのは目に見えている。
だから、壁形にしてしまうのはいかにも指しづらい。
同じく△4五角から殺到した時に、逃げ場所がないだろう、と。
だから、▲3八同銀の一手でしょ、と言っているわけなのだ。
(本当はこれらの変化も簡単ではないが。)
しかし、一歩使ってまで▲3八同銀と指させるほどの意味のある手なのか、
その狙いを知っておいたほうがいいだろう。
3八銀と4九金の形は連結がよく、むしろ先手にとって一見プラスに思えるような手を敢えてやってくる理由。
この答えは、△3三角戦法と比較するとよくわかる。
2-2. 狙いの意味
歩を打たずに△3三角、もしくは△4四角という戦法がある。
その変化を端的に示すと、以下のような図になる。
(詳細は、△3三角をまとめた記事を作るので、そちらでご確認いただきたい。)
8筋で飛車銀を交換して、8九に居た角が△6七角成とした場面。
ここで飛車あたりになっているが、飛車を逃げれば後手の攻めは切れ気味だ。
しかし、△3八歩▲同銀が入っていると、詰めろ飛車取りになって後手の勝ち。
(△6八銀▲4八玉△5七馬まで)
このように、遠く3四の飛車を狙いつつ詰めろをかけるために、
わざわざ一歩使ってまで、▲3八銀と指させたいのだ。
2-3.先手にとっては大きなメリットにも
しかし、先手から見たら先ほどの狙い筋さえ気をつければ、
▲3八銀は頼まれなくてもどこかで指したいような好形。
金銀が連結して、金が浮き駒でなくなるのだ。
変化の一つで、△9九龍と香車を取りながら下段に入られた時に、金のケアをする必要がなくなっている。
しかも、一歩もらえているのだ。
なので、一長一短。
先手からすれば、▲3八銀が良くなるように指すことを心がけたい。
正確に指せば先手がそれで全然良いのだが、
後手があえて△3八歩と打ってきた以上、
△4四角戦法にそれなりの自信があるということの表れでもあるのだ。
(ちょっと後手を買いかぶり過ぎているキライもあるが。。。)
さて、概要はこの辺りにして、具体的な対応に入ろう。
3.▲3八同銀の変化
3-1.▲3八同銀△4四角は先手良し(ただし、△4四角戦法は対応が難しい)
まずは▲同銀と取る場合だ。
後手の狙いに乗っかってあげるような指し方だ。
ここで後手は△4四角と打ち、△4四角戦法と呼ばれる形になる。
△4四角戦法も奥が深いので、それについては別記事とする。
(正確に指せば先手良しらしいのだが難しい。というところまでをこの記事の結論としよう)
3-2.▲3八同銀に△2八歩
同銀の瞬間の△2八歩が少しだけ気になるが、これも全くもって問題ない。
△2八歩▲2四飛△3三角▲2一飛成 という変化が有力だ。
▲2四飛に△2二銀や△3三桂と桂馬を守るのは、▲2八飛と歩を払っておけば後手の狙いが消えて先手よし。
なので△3三角と攻め合う一手だろうが、それには構わず▲2一飛成だ。
横歩取り急戦において覚えておいて欲しいのが、
桂を取りながらの▲2一飛成が実現すれば先手良し
という単純な原則だ。
次の▲2四桂があまりに厳しいのと、
後手が攻め込んできた場合に、飛車の位置によっては▲3一龍△同金▲3三角と王手飛車を狙えるからだ。
さて。
▲2一飛成に対して後手からは、△8八角成か△8八飛成が考えられるだろう。
3-2-1.▲2一飛成△8八角成の変化
では、角成りから見ていこう。
△8八角成▲同金△同飛成▲3一竜
これは前述した王手飛車の狙い筋。
▲3一竜を△同金と取ると▲3三角
王手竜取りで先手勝ち。
なので、▲3一龍には後手は何か受ける必要があるが、
玉を逃げても金を取られながら王手になる。
なので、4一に駒を使って受けなければならない。
ただでさえ角損で攻め入ったはずの後手が、さらに駒を自陣に打つようでは先手はっきり優勢。
龍で攻められる分には、▲4八玉〜▲3九玉のルートがかなり安全だ。
3-2-2.▲2一飛成△8八飛成の変化
では、続いて飛車成り。
当然、▲同金△同馬だが、そこで▲2四桂の攻める。
これがあまりにも早い。
受けの手が難しいのだ。
盤上の金銀だけでは受けは無い、駒を打つにしても打ち場所に迷う。
打つとすれば△4一金ぐらいだろうが、それには▲8二歩と逆側から攻めればいい。
△同銀には▲8四飛で十分。
▲2四桂には△2二馬とするぐらいだが、▲3二桂成と攻め込めば先手が大優勢。
変化の一例を示すと、▲2四桂△2二馬▲3二桂成△同馬▲1一龍△2二銀▲3六香△1一銀▲3二香成
後手にも攻めはいくつか残されているが、駒が少ないのと歩切れ。
丁寧に対応していけば先手が負けることはないだろう。
3-3.▲3八同銀に△4五角
そして、▲同銀△4五角の変化も無くはなさそうだが、これは通常の△4五角と比べて後手が損している。
先手としてはありがたい変化なのだ。
その違いだけ知っておこう。
△4五角戦法の王道の変化のひとつに、△6六銀という攻め筋がある。
7八の金をめがけて、6筋から殺到するという戦法だ。
▲3三香成△6七角成▲同金△同銀成と進んだ局面。
ここは後手から次に△3八飛と打たれる手があるので、先手も忙しいところ。
・・・なのだが、△3八歩▲同銀の交換が入っている場合、この筋が消えている。
他にも、△4五角戦法の場合の攻め筋はあるのだが、
△3八歩▲同銀の交換は、駒の連結がよくなっている分、先手に得なのだ。
後手から進んで向かうような変化ではない。
他の変化(▲3八同金/▲2八銀)の対応
少し記事が長くなってきてしまったので、別記事を用意した。
こちらでご確認いただければと思う。
私の結論としては、先手が急に悪くなるわけではなさそうだ。
むしろ、相手の研究を外せそう、という意味では▲2八銀を指したい。
(指してみたら、また違う発見があるかもしれない)
いずれにしても、横歩取りは奥が深い。
研究勝負になってしまうが、恐れずに向かっていけるように指していきたい。