今年も「電王AWAKEに勝ったら100万円」というイベントが行われているが、本当に勝利者が現れてしまった。
その後、続々と同様の戦形に持ち込もうとする戦法、「銀冠定跡」について考察してみようと思う。
激指先生でも再現するのだろうか、楽しみである。
戦形は、角交換型四間飛車vs居飛車穴熊
どんな戦形だったのだろうか、改めて振り返ってみよう。
なお、実際の棋譜は電王AWAKEに挑戦者が研究手で勝利!その戦法とは・・・でご紹介している。
まだ棋譜を追っていない人は、リンク先から飛んで確認するといいだろう。
駒の文字がやや見づらいという声があったため、
今回から、一文字駒を使うことにした。
そのあたりも注目してもらえると嬉しい限りだ。
では、初手から問題の局面までを見ていこう。
初手から数手は運に左右される
▲7六歩△3四歩▲6八飛△6二銀
先手は角交換型四間飛車に構える。
この企画、挑戦者は全て先手なので、こうなってくれれば銀冠定跡を目指すことが出来る。
出だしの数手が結構ポイントなのだ。
4手目に△3五歩のような相振り飛車になる展開もあるため、そうなってしまうと定跡は目指せない。
続けて見ていこう。
▲4八玉△8四歩▲1六歩△4二玉▲1五歩
早々と1筋を突き越す。地味だがこれもポイントだ。
後々分かるが、この手を指すことで1六へ香車を逃げ出せる道を用意している。
1七でも変わりがないようだが、桂馬が逃げ出す場所が無くなる。
通常は▲1五歩を突き越す前に角交換を入れるのだが・・・
この作戦は、そうはしない。
穴熊に敢えて組ませる
△3二玉▲2二角成△同玉
通常、居飛車穴熊は振り飛車にとって脅威の作戦である。
玉が堅く、そして遠いからだ。
出来る限り穴熊に組ませるようなことはしない方が得策だ。
なので通常は、玉が4二の位置のときに▲2二角成と角を交換して、
△同銀と銀で取らせるのがポイントだ。
2二に銀がいる形になれば、居飛車穴熊にはしづらい。
矢倉や銀冠に組むような戦いになる。
しかし、敢えて穴熊に組ませるように、△3二玉を待って▲2二角成としたのだ。
微妙だがそのあたりの組ませ方も非常に上手い。
さすが、よく研究されている。
もう少し、駒組みが続く。
▲8八銀△1二香▲7七銀△1一玉
さぁ、ここからだ。
銀冠を先に作り、敢えてスキを作る
▲2八銀△2二銀
▲2六歩△3一金▲2七銀
普通の将棋であれば、美濃→高美濃→銀冠と組む手順が一般的だ。
玉をまず戦場から遠ざける。
そして徐々に囲いを発展させる。
これがオーソドックスな組み方だ。
もちろん理由がある。
急な戦いになった場合に、玉の遠さが効いてくるからだ。
戦場に近い位置で戦いが起こると、玉にダイレクトにぶつかってしまう。
囲いを先に完成させても、玉がそこにいないのでは意味が無い。
しかしこの作戦では、玉を遠ざける前に、先に銀冠を作るのだ。
美濃を組む▲3八玉▲2八玉▲3八銀の三手を使って、
▲2八銀▲2六歩▲2七銀。
この3手の間に急な戦いになることはない、という研究の成果だろう。
ハメ手?△2八角を打たせる
そうした状態で、生まれた2八のスキに角を打たせる。
△2八角
人間の感覚的には怖くて打てないところだが、コンピュータは打ってくる。
ponanzaも打つようだし、
先ほど試したところ、うちの激指の7段+モードでも打ってきた。
持ち時間をもの凄く長くすれば違うかもしれないが、
短い時間の勝負に関して言えば、ほぼ間違いなく打ってくる。
全く同一のこのタイミングで打たなくても、
手待ちで▲5八金などしていけば、そのうち打ってくるようだ。
人間では、おそらく打つのは非常に違和感がある。
捕まるのが目に見えているところだからだ。
コンピュータにとってこの局面での△2八角はいい手だという判断がなされるようだ。
稲葉さんのいう「敢えて門を開けておく」という作戦に通じるものがあるだろう。
当然、香車は避ける。
▲1六香
香車が逃げられるので、角を空成りするより他無くなる。
△1九角成▲3八玉
これだけで先手がやや良くなっているのだ。
端の馬は動けない
勇んで打って角が成ったものの・・・
たったこれだけで、馬が動けない。
いろいろ手はあるものの・・・
△8五歩▲4八金△3五歩▲5八金
この手順は一見なんでもないようだが、▲6九飛▲1七桂とすることで、
馬を取ろうという準備である。
そこまでさすがに上手くいかなかったが。。。
△3六歩▲同銀△5一銀▲2七銀△2九馬
馬が全く働かないうえに、ただ取りされるわけにはいかず、
どこかのタイミングで桂と交換になるのだ。
これが、vsコンピュータの「銀冠定跡」だ。
再現率はもの凄く高く、この角打ちまでであれば、
「電王AWAKEに勝てたら100万円」の企画の2日目も、度々出現している。
しかし、角桂交換した後、勝ちきるのが大変。
勝てた方は、相当に研究し、きっちり入玉をすることが出来た。
やはり、相当な実力者だったのだ。
コンピュータ将棋の面白さ
コンピュータ将棋はもの凄く発達している。
いまやプロでも軽々には勝てないほどだ。
その判断基準は我々人間の感覚とは大きく違うことが、よく分かった。
馬が出来る、竜が出来ることは実利が大きいと見て、
やはりチャンスがあれば少しでも良くしようと指すのだなぁと感じた。
発達したその頭脳で最善手を選ぶことで、
一定の局面であれば、一定の手が出る、というのが面白い。
コンピュータらしい。
コンピュータが発達することで、新しい手が出てきて、
それを人間がまた研究を重ねて、より将棋が進化していく。
そんなタイミングをリアルで見ていけるのは、非常に嬉しい。
電王戦はプロ棋士vsコンピュータの試合だが、
別のところでは共存も絶対に必要なテーマだし、
事実、共存はもう既に始まっている。
共存はすれど、人間の全敗という未来はまだ、正直見たくない。
今後の将棋と、コンピュータ将棋の発展を願って、
この記事を締めくくるとしよう。